第725「脱北海道」
会社の窓から色づき始めた街路樹を眺めると、山本が寂しげに言った。
「もう秋っすね~」
「何を黄昏てるんだお前は」と羽賀。
「だって、また直ぐに寒い冬がやって来るんっすよ」
「寒いのは嫌いか?」
「好きな人が居るんすか?」
「シロクマとかペンギン」
「人でですよ」
「そりゃどっかに居るだろ」
「雪降ったら雪かきしなきゃならないし、道路は滑るし良い事なんてないっすよ」
「じゃ、何で北海道に住んでるんだよ」
「う~ん、何でですかね~生まれ育った時からの惰性すかね」
「惰性で住んでのか」
「まあ、そうとしか言い様がないっすね」
「今からその考えを直した方が良いんじゃないか」
「直すって?」
「別に住もうと思ったら何処にだって住めるだろ、結婚して家族ができると色々なしがらみも出て来るけど、お前は独身だし、もっと自由で良いんじゃないのか?」
「あっ、そう言われてみればそうっすね」
「そうだよ、世の中狭く生きる必要はない、お前は自由なんだ」
「そっか、まだ若いし、これからだって新しい人生を歩む事ができるんっすよね。よし!脱北海道だ!」
「そうだよ、若さは可能性だ!その可能性を新天地で生かすべきだ」
「何処にしましょう新天地」
「暖かい所が良いんだろ?沖縄とかはどうだ?」
「暑過ぎます」
「じゃ、九州は?」
「まだ暑いっすね~」
「名古屋なんてどうだ?」
「あ~夏はけっこう蒸し暑いんすよね~」
「いっそ東京なんて良いんじゃないか?可能性を試すんならやっぱ東京だろ」
「人が多過ぎて嫌っすね~」
「じゃ長野なんてどうだ?」
「う~ん何か中途半端な田舎って感じっすよね」
「仙台はどうだ?」
「う~ん牛タンと笹かましか思い浮かばない」
「じゃ、函館は?」
「ああ~!来た~それだ!良いっすね~函館」
「結局北海道じゃん・・・時間の無駄だったな」