日曜日の朝、祖父と父が言い争う声で目が覚めた。
耳元で囁く美女の声なら気持ち良く起きられるのだろうが、爺さん二人の声では何とも目覚めが悪い。
どうせ争いの原因は取るに足らない些細な事なのだ。
もし母が居れば、猛獣使いの鞭の音のごとく「うるさい」の一言で終了すのだが、今日は母が留守の様だ。
僕が下に降りて行くとバトルが終わったのか、ちょうど父が出掛けた後だった。
「親父は？」
「知らん！スーパーにでも行ったんでないか」と素っ気ない態度の祖父。
「今日は出掛けんのか？」
「もう少ししたらね」
そして今週もまた隣りの源造さんの孫の健太が遊びに来た。
「いや～寒くなったもんだな～」源造さんや家の祖父など年寄りと付き合いが多いせいか、時々言葉遣いが四歳児とは思えないほどジジくさい。
「そうだな～風邪ひくなよ」と祖父が笑う。
「あっ、もう家に入れたんだ」部屋にある植木鉢を見て健太が言った。
「ああ、もう寒くなって来たからな」
「俺も手伝いたかったな」
「春になったら、外に出すのを手伝ってくれ」
「うん、分かった。でも春はいつからだ？」
「４月くらいかな」
「まだまだず～っと先？」
「今は１０月だから、あと何か月だ？数えてみろ」
「え～っと・・１０の次が１１、１２、１３、１４」
「おいおい、一年は１２月で終わりだ。それじゃいつまでたっても４月にならんぞ」
「えっ？そしたら１２月の次は？」
「１２月の次は、また１月から始まるんだ」
「何で１２の次は１３じゃないんだ？」
「そ、そりゃお前・・・そう決まっとるんだから、しょうがないべ」
「え～どうして決まってるんだ？」
「そんな事知らん。あっ、今度来るまでに調べといちゃる」最近、祖父は健太に聞かれて分からない時は、この手で逃げている様だ。
『どうしてどうして怪獣』の健太に一々対応していたは確かに疲れる。そして翌週に合う時はお互い忘れているというのが最近のパターンだ。
「うん、分かった。じゃ１２月の次は・・・１月か？」
「そうだ１月だ」と祖父に言われ、指を折りながら数え直す健太。
「あと、ろくだ」
「そうだな、あと半年だ」
「ハントシって？」
「一年の半分だから半年っていうんだ」
「ふ～ん、爺ちゃんも半年過ぎたか？」まだ半年の意味が分かってない様だ。
「過ぎた過ぎた、とっくに過ぎた。来週、健太が来た時は、爺ちゃんの顔に白い布が乗ってるかも知れんぞ」
と祖父は笑った。つづく。