第728「律子さん101」
久し振りにゆっくりと寝る事ができた。
テレビを点けて今日は平日だった事に改めて気付く。
お化粧はどうしょうか?と思った時、インターホンがなった。母が来た様だ。
「あら、あんた会社は?どこか具合でも悪いの?」
「会社の創立記念日なの」
「へ~っ何だか学校みたい」
「お母さんこそどうしたの?」
「ここの前を通ったら、あんたの車があったからさ、どうしたんだろうって思ってね」
そう言った後、母は私の顔をまじまじと見て言った。
「お化粧してないと目元がお父さんにそっくりだね」
「そりゃ親子だし、どこか似てるでしょう、それよりお父さんは元気?」
「うん元気だよ、お父さんは頭もしっかりしてるけど、私の方がね~」
「なに、ボケてきたとか?」
「最近、物忘れが酷くてさ、この前もご飯炊こうと思ったらお米の軽量カップが無くてさ、洗ったんだっけって思い出して、洗いカゴを見たら、そこに無いんだよ。
そしたらお父さんがこれは何の真似だ?って聞くから見たら、軽量カップにお茶を入れて出しててさ、もう嫌になっちゃう。他人事だと笑い話にもなるけど、自分の事だと深刻だよ」
「どうせ何か考え事でもしてたんでしょ?そうやって気が付く内はまだまだ大丈夫だって、それよりさ、どっか行く途中だったんじゃないの?」
「あら?そう言えば私、何処に行くんだったっけ?」
「えっ!マジ?」
「冗談冗談、そこまでボケてないよ。スーパーに行く途中だったんだよ。ほら、こうして買う物を忘れない様にメモも書いてるんだから」
その後、母はお茶を一杯飲むとスーパーへ向かった。
テーブルの上にさっきの母のメモがにあった・・・忘れて行ったのだ。
私が急いで母のスマホへ電話をしたその直後、何処からか母が着信音にしている音楽が流れて来た。
音源を辿ると、テーブルの足元に母のバッグを発見した。
「全くもう、世話の焼ける婆さんだな~私がスーパー迄届けるしかないか」私はそう言ってため息をつくと、父に似た目元からファンデーションを塗った。