僕が子どもの頃のトイレと言えば、和式が当たり前の時代で、汲み取り式が主流だった。俗に言うポットン便所である。おまけに薄暗くて冬場は寒く、ニオイもあり不潔な場所だった。
だが、今では殆どの家庭が水洗となり、洋式になった上、ウォシュレットなる製品も登場し、暖かく明るくなった。
結果、トイレは不潔な場所から快適な空間へと変わった。
僕が高校生くらいの頃だったと思う。家の辺り迄下水管が通り、ようやく我が家にもトイレ近代化の波が押し寄せる事となった。
新しいトイレは家族にとって快適な筈であったが、祖母だけが馴染めない様だった。便座が割れ、蓋が壊れると言った事が祖母の時に頻繁に起こった。
原因を突き止める為、どうやってしているか聞いてみた。
「なんせ滑るからさ、まず靴下を脱いでだね」と言って、いきなり靴下を脱ぐと、こちらに背中を向け、便座の上に乗ってしゃがみ込み、トイレの蓋を抱え込んだ。
祖母がトイレに入っている時は、いつも靴下がドアの前に置いてあり、不思議に思っていたが、これでやっと原因が分かった。
曲芸師も真っ青と言った信じられない光景を見て、目が点になっている僕らに振り向き様にこう言った。
「ほら、つかまる所が無いから蓋が壊れるんだよ。それに足場も悪いしさ」