会社の喫煙室で買って来たばかりのタバコの封を切りながら、山本が言った。
「今日からタバコが高くなっちゃいましたね」
「いっその事、一箱千円位にしたらどうなんだ？そしたら何の躊躇もなく止めれるのによ」と羽賀が言った。
「国もちゃんと考えていて、一気に値上げして、タバコ止める人が多くなっちゃったら、税収が減っちゃうからじゃないっすか？だから少しずつ値上げをして麻痺させてるんすよ」
「相変わらず国のやる事って嫌らしいな。だけど、タバコの殆どが税金って言う事はだよ、俺ら喫煙者は、タバコを吸わない人達より国に貢献してる訳だよな」
「そうっすよね。タバコを吸わない人より多く税金を払ってるって事っすからね」
「そうだよ。そう考えると、ちょっと変じゃねえか？喫煙者がどんどん肩身が狭くなってるじゃねえか」
「ねえかって・・江戸っ子っすか」
「普通は逆だろ、喫煙者ほど優遇されるべきだろ？税金いっぱい納めてくれてありがとうってなもんだろ。なのに、何でこんな狭っこい喫煙室でタバコ吸わにゃあならん訳？」
「まあ、そうっすね」
「それにタバコを吸う人間の発ガン率が高いって、それがどうした。いいじゃん。その分早く死ぬんだし、国にしたら年金だって払わなくて済むんだぞ」
話しが変な方向へ逸れて来たので、山本が話題を切り替えた。
「タバコは買い溜めしてあるんすか？」
「家には必ずタバコの買い置きがあるんだ。今回も値上がり前に買い溜めしてあるはずだ」
「へ～っ、よくできた奥さんっすね」
「馬鹿、そのタバコは毎回俺が金出して買い取ってるんだよ。一箱吸うごとに貯金箱に金入れてな。家の奥さんしっかりしてるからさ」
帰宅後、食後に羽賀がタ バコを吸おうとして、買い置きしてあるタバコを取り出し、当たり前の様に三百円を貯金箱に入れた。それを見た奥さんが言った。
「違うでしょ。今日からタバコは四百四十円だよ」