運動嫌いのＡが犬を買った。運動不足を解消する為、一緒に散歩をするらしい。
「犬の中で一番賢い犬種なんだってさ」自慢げにＡは言った。そう聞いて直ぐにボーダーコリーと分かった。
「確かに頭は良いかも知れないけど、その犬、牧羊犬だぞ。牧羊犬って言うのは広い牧場を走り回ってもバテない体力があるんだよ。牧羊犬として飼うんじゃなければ、それだけ沢山の運動をさせなきゃなんないって事だよ」と僕は言った。
「俺と一緒に毎日散歩するのにちょうど良いじゃん」
「散歩で済めば良いけどな」
それから半年が経った頃、Ａから電話があった。
「あの時、お前の言いたかった事が、やっと分かったよ。あの犬の運動量は半端じゃないんだ。奴ら雨の日も風の日も関係無いんだもん。散歩の時間が来ると吠え出すもんだからさ、近所迷惑になっちゃいけないと思って、仕事でどんなに疲れてても、散歩しなきゃならないんだよ。これじゃどっちが飼い主か分からん。それに、散歩と言うより、今じゃ往復十㎞のマラソンだよ」と、昔から運動嫌いだったＡが愚痴をこぼした。
暫くしてＡが家に遊びに来た。デップリと出ていた腹もすっかり引っ込み、別人の様な体系になっていた。
「俺さ、来年の市民マラソンに出ようと思うんだ。お前も一緒に出ないか？走るって気持ち良いぞ」
運動嫌いが運動好きになった。こんなに人って変わるんだ。