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最終更新日:2024年04月26日
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第576話「これ誰の?」

激しい物音で目が覚めた。
時計を見ると朝の五時半。
「うるさいな~、何を朝から騒いでるんだ!」玄関から父の声が聞こえる。
「ああ、すまん。道具箱をひっくり返してしまってな」と祖父。更にガチャガチャガラガラと音が響く。
「だからうるさいって、さっきから何探してんだよ」
「針金がないかと思ってな。ああ~ダメだな、歳を取ると物忘れが酷くて、何処にやったかな」
「何に使うんだ?」
「いや、ちょっと、コチョコチョって使うんだ」
「コチョコチョ?何だそれ」
「ないな、物置かな?」 祖父は物置へ行ったのか、玄関の閉まる音がして、家の中には静けさが戻った。
僕は薄っすらと目を開け、ベッドから上半身を起こすと、日の光を避ける様に少しだけカーテンを開けた。
2階から物置を見下ろすと、祖父が短い針金らしき物を持って、小走りに庭の木の根元にしゃがみ込み、こちらに背を向けて何かしている。まさにコチョコチョって感じだ。
気になって仕方ない僕は、下へ降りて玄関のドアを静かに開けると、祖父に声を掛けた。「何やってんの?」
祖父は一瞬驚いた様だったが、僕に三十センチ四方の箱を見せて言った。
「そこに埋まってたんだ」と木の根本を指差した。
「埋蔵金かも知れん」見ると確かに立派な木箱だった。
「昔の人がへそくりでも隠したのかも知れんぞ」だがそれにしては変だ。確かに鍵は古いが錆ていない。
いつの間にか父も加わって三人で箱を見ていると。
「俺がその箱を作ったんだ」突然の声に僕等が驚いて後ろを振り向くと、裏の爺ちゃんが立っていた。
「50年経ったら掘り出す事になってたんだが、木箱だから腐ってしまうだろうと思って、俺が家で保管してあったんだ。それでこの前、そっと元に戻した。
今日がその五十年目だ。お前の誕生日だな。ハッピバスデー」父に箱のものらしき小さな鍵を手渡した。
不思議そうな顔で鍵を受け取った父が言った。
「ちょっと待て、今日は俺の誕生日じゃないぞ、それに、こんな箱は知らん」
「半世紀も前のことだし、忘れてても仕方ないな」と裏の爺ちゃん。
「何が入っとるんだ?」と父に訊く祖父。
「だから知らんって、俺のじゃないんだから」
「鍵があるんだから、開けてみりゃいいじゃん」僕が父の持つ鍵を指差して言った。
そりゃそうだと言う事になり、父は箱の鍵を開けた。
「うん?何だこりゃ?何でこんなところに入れ歯が入ってるんだ?」今度は全員が頭を捻る。
「あっ!あ~っ、ここにあったのか」裏の爺ちゃんが何か思い出した様だ。
「宝箱は2個あったんだ。初めに作った箱は出来が良すぎて埋めるのが勿体なくて、物入れとして使う事にしたんだ。それがこの箱だ」
「でも何で入れ歯が入ってるんだ?入れ歯入れか?」と祖父。
「いや、健太がいたずらしたら困るからって、とりあえずこの箱に入れといたんだ」
「入れ歯がないと困るだろ、何ですぐ気づかなかった?」と不思議そうな顔で訊く祖父。
「入れ歯を2個持っていてな、今している方がしっくりするんだ。だから、こっちの入れ歯の事は忘れてた」と笑う裏の爺ちゃん。
「じゃ、親父の本当の宝箱はどうしたの?」と僕が訊く。
「だからそんなもんは知らんって」と声を荒げる父。
「あっ!あ~っ・・・大変だ!」と今度はさっきより大声で叫ぶ裏の爺ちゃん。
「今度は何だ?」と笑う祖父。
「あの箱に、俺達が昔、競馬とパチンコで貯めた金が入ってる」と裏の爺ちゃんが言ったあと、更に何かを思い出した様に。
「そっか、家の婆さんに箱の事がばれたんで、空の箱をお前の宝箱だって胡麻化したんだっけ」と父に向って言う。
「それから、何十年かして、空だった箱に入れ歯を入れて、俺の宝箱だと思い込んで、最近ここに埋めたってことか」と父が笑う。
「どんな時も嘘をつくもんじゃないな、長い年月の間に、自分の中で嘘が現実だと思い込んでいたんだな、お前の宝箱なんて最初から無かったんだ」としみじみ言う裏の爺ちゃん。
「だけど、昔はよく2人パチンコ行ったもんだったな。稼いだ金もお互い婆さんに見つかったらうるさいからって、老後になったら二人でこそり使っちまおうっていってたやつな、なんぼだっけ?どうせ大した金額じゃないよな」笑う祖父。
「馬鹿野郎、150万だ!」
「ひやくごじゅうまん?」僕等3人は大声で叫ぶと、大急ぎで物置にスコップを取りに行く。
「で、で、何処に埋めたんだっけか?」とスコップを手におろおろする祖父。
「この木の辺りか?いや、そこの木の辺りか・・・ああ、その塀の近くのどこかだったか・・・」うろ覚えの裏の爺ちゃん。
結局、宝箱は見つからず、何処へ埋めたのか今も分からない。

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