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最終更新日:2024年04月19日
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第539話「律子さん70」

私の勤める会社には小林幸子と田中好子の芸能人と同姓同名が二人いる。
私達は時々会社帰りに食事をすることがある。今日も会社近くの居酒屋へ行くことにした。
「寒くなりましたよね」と寒風の中、年下の田中が立てたコートの襟を両手で押えながら、口元を隠す様にして言った。
「こんなのまだまだ序の口じゃない」薄手のコートを着た三人の中で一番年上で肉付きのいい小林が言った。
今年は濃いグレーのコートを着て、お腹を突き出して歩く姿はオッサンの様で、小林幸子ではなく小林亜星といった感じだ。
「今日はちょっと寒いんじゃない?去年着てた、えんじ色のコートは?あれ似合ってたよ」と私が言う。
「あれはもっと寒くなってからよ。今からあんなの着てたら、身体中が汗でヌメヌメになっちゃうよ」確かに、少し歩いただけで、もう汗ばんでる様だ。
連呼しながらやって来る選挙カーを見て思い出した様に田中が言う。
「日曜日は投票日ですけど、行くんですか?」と田中。
「もちろん、私は選挙は国民の義務だと思ってるから」
小林はそう言うと、近づいて来る選挙カーへとさり気なく手を振った。
「あっ、ご主人、ご声援ありがとうございます。遅くまでのお仕事、御苦労です」
小林の顔色がサッと変わる。
「誰が、ご主人じゃ!ふん行くのやめた!」
「選挙は義務なんじゃなかったでしたっけ?」と田中。
「選挙は権利よ!権利は放棄できるの!」
初めて入った居酒屋は寿司屋の様に威勢がよかった。
カウンターの中でマグロをさばきながら、店員が私達を見て言った。
「ヘイ、らっしゃい。今日はトロが安いよ。このマグロ見てよ。どうだい社長。それにしても羨ましいね。美人を二人も連れてさ、両手に花ってやつだね」小林は店員がマグロをさばく大きな包丁を見て言った。
「切れそうだね。まるで刀みたい」怒りでブルブル震える小林のコートの両袖を、田中と私はそっと摑んだ

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