猫舌の母は、冷め切ったお茶を飲み干すと言った。
「このお茶美味しいね」
「そう？貰い物だけど」
「きっと良いお茶だね。冷めても美味しいもん」
「でもさ、お父さんは熱いお茶しか飲まないよね」
「そうなの、あんな熱いのよく平気で飲めるもんだと思って」
「私は熱いの平気だからお父さんに似たんだね」
「そうだね、羨ましい」と母は真剣な顔で溜息をつく。
「えっ？そんなに？」
「だってラーメンも冷めたやつしか食べられないんだよ。お箸で掴んでフーフーしてる内にどんどんのびていっちゃうし、麺も最後はスープを吸って倍ぐらいの太さになって、やっと食べれる様になるんだから」
「そうだよね、お母さんは昔から不味いラーメンしか食べた事ないんだよね」
「そうだよ。可哀想だろ」
「でも冷やしラーメンだったら大丈夫だよね」
「あれはまた別物じゃない。昨日もね、お父さんにこれでもか、っていうほど熱いパスタをお昼に作ったの。そしたら、ハフハフしながら食べてた」
「お母さんはどうしたの？」
「私のは最初っから冷やしパスタなんだけど、お父さんの見てたら美味しそうでさ、あ～私もハフハフしたいな～って、羨ましかった」
「体質だから仕方ないよね」
「そうなんだけど、でも何かシャクじゃない？私ができない事を、お父さんは簡単にできちゃうんだよ」
「ハフハフする事が？」
「そうハフハフ」
母はここ迄話すと、何かを思い出した様に、急に不敵な笑みを浮かべた。
「私ね、あのハフハフがどの辺の熱さまで耐えられるのか、ちょっと試してみたくなってさ」
「えっ？料理で試すの？」
「うん、今晩はアツアツ極辛麻婆豆腐にしようかと思ってね。そして明日は、極辛アツアツカレーで・・・でもさ、やっぱりあんかけで熱いのは、かなりつらいと思うんだよね。炊き立てのアツアツご飯に、アツアツのあんかけで中華丼なんか」
「やめなさいって！またお父さんと喧嘩したんでしょ」