Aは残りのビールを一気に飲み干すと、空のジョッキをドンとテーブルの上に置いて言った。
「いや～やっぱ缶より生が断然美味いな」
「そっか、晩酌は缶ビールなんだ」と僕が笑う。
「缶ビールじゃなくてさ、発泡酒だから。　それに、こうやって外に出たのも半年振りだしな」
「コロナで控えてるのか？」
「それもあるけどさ、まあ、金欠病が大きな原因かな」
「金欠病？何で？」
「家の奥さんのパート先がコロナで無くなっちゃてさ、俺の小遣いまで生活費に回っちゃって」
「そりゃ大変だな」
「でもさ、金が無くて出られないもんだから、暴飲暴食もなくなって、体重が５キロも減ってさ、ダイエットしても３キロが限界だったのに、軽く５キロだもん、皮肉なもんだよな」Ａはそう言うと、そばにいた店員を呼び止め注文をする。
「レモンサワー一つ」Ａの言葉に思わず僕は自分の耳を疑った。
「何だよ、レモンサワーって、生じゃないのか？」
「ほら、俺は金欠病だから、少しでも単価の低い物をさ」
「え～っ！お前らしくないじゃん！そんなに生活大変なのか？」
「そうなの大変なのよ、子供も金が掛かるしさ」とＡは眉を八の字にしながら情けなさそうに笑う。
「今日は金の心配すんな、俺が出すから」と僕。
「いいよ～、俺あんまり人に奢って貰った事ないし」
「だからたまには良いだろ、困った時はお互い様だ。　いつものお前じゃなきゃ、何せ俺が落ち着かない」
「よし！じゃ、ここは一つご厚意に甘えるとするか」Ａは僕のジョッキを見ながら店員に声を掛けた。
「生二つね～」いつものＡに戻って、少しホッとする。
その時、Aの知り合いらしき人が声を掛けて来た。
「やっぱりそうだ！いや～お久し振りです。随分とスマートになられて、カネナイさんだって分かりませんでしたよ」僕は思わず吹き出しそうになるのを堪える。
「カネナイじゃないです。カナウチですから、金内」